僕は塾の仕事が終わり那覇へ向かう車を運転していて、前にセダンが走っている。
車内はいつもは音楽がかかっているけど、今日は無音で、エンジンの音と、車が空気を切る音と、周りの騒音が聞こえる。
運転してるときは基本的に前を見なきゃいけないわけで、そんなわけで前をみていると、セダンの窓から丸いものが見えた。
信号がきっと赤に変わったのだろう、ブレーキランプが前から順について、僕もブレーキを踏む。目はずっとセダンの窓を見てて、そこから少年がひょこっと顔を出す。
小さい頃、僕は危ないから顔を出しちゃダメ!と母親に怒られて大人しく諦めたその行為を奔放にやっている少年が少し羨ましかった。気になって少し奥の運転席に目をやると白髪のおじいちゃんが運転している。
僕は幼き日にあの景色を見ることができなかった。